岐阜地方裁判所御嵩支部 平成7年(ワ)79号 判決 1997年3月17日
原告
田浦武夫こと
タウラ・アルマンド・タケオ
右訴訟代理人弁護士
冨岡武生
被告
安藤綾子
右訴訟代理人弁護士
関口宗男
主文
一 被告は、原告に対し、金一二九一万六二五七円及びこれに対する平成五年一〇月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告は、原告に対し、金七〇〇〇万円及びこれに対する平成五年一〇月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、日系ブラジル人の原告が、通勤のため自動二輪車を運転中、自動車と衝突して後遺障害を残す傷害を負ったため、右自動車の運転者に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求(内金請求)した事案である。
二 前提となる事実
1 当事者(甲第二六ないし第二八号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨)
原告は、一九六七年三月二九日、ブラジル(ブラジル連邦共和国)において、日系二世の父親と日系一世の母親との間に生まれたブラジル国籍を有する者であるが、来日後の平成二年七月株式会社アイキ(本店所在地は可児市)に入社し、同社から派遣されてカヤバ工業株式会社岐阜南工場で働いていた。
2 事故の発生(甲第二五号証の一ないし六)
(1) 日時 平成五年一〇月一三午前七時五〇分ころ
(2) 場所 岐阜県可児市土田一三八八番地先の信号機のない交差点(以下「本件交差点」という)
(3) 被害車 原告運転の自動二輪車(岐む六〇五五)
(4) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(岐阜五三ろ五八四八)
(5) 態様 加害車が本件交差点に進入したところ、右方道路から進行して来た被害車と衝突した(以下「本件事故」という)。
3 原告の受傷内容等(当事者間に争いがない)
原告は、本件事故により脊髄損傷、第五・第七頸椎骨折、第二腰椎脱臼骨折の傷害を負い、事故当日から平成六年一二月五日まで可児市内の東濃病院に入院し、その後は通院して治療を受け、平成七年三月一七日症状が固定した。
4 被告の責任原因(甲第二五号証の一ないし六)
被告は、加害車を運転し、後記のとおり、右方道路の安全確認を怠って本件交差点に進入した過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある(なお、被告は、損害賠償責任があること自体は争っていない)。
三 本件の争点
本件の主要な争点は、①本件事故における原告と被告の過失割合、②後遺傷害による逸失利益の算定における労働能力喪失率及び基礎収入額であるが、右争点に関する当事者の主張は、以下のとおりである。
1 原告と被告の過失割合
(1) 被告の主張
被告進行道路からは本件交差点の左右の見通しが悪く、本件事故当時は通勤時間帯で交差する道路共に比較的交通量が多かった。加害車を運転していた被告は、停止線の直前で一時停止した後、左右の見通せるところまで前進し、再び停止して交差道路の通行車両が途切れるのを待ち、カーブミラーによって右方道路からの車両がないことを確認したものの、左方道路から進行してきた車両に気をとられ、再度右方道路の安全を確認することなく発進したことにより、その直後に本件事故を惹起した。一方、被害車を運転していた原告は、制限時速が四〇キロメートルの道路を時速五〇キロメートルで走行し、停止している加害車に気付きながら同車が発進することはないと軽信し、減速することなく本件交差点に進入した。右の事故状況からすると、本件事故における過失割合は、原告が二五パーセント、被告が七五パーセントである。
(2) 原告の主張
本件事故の状況に関する被告の主張は概ね認めるが、被害車の走行速度は不明であるし、停止している加害車に気付いた原告が、同車が発進することはないと考えて減速しなかったことは不注意というべきものではない。また、本件交差点は変則的な交差点であって、被告の進行道路は本件交差点の入口と出口の間で右側に曲がる形になるから、被告車は本件交差点において右折するべく進行したのである。したがって、本件事故における過失割合は、原告が一〇パーセント、被告が九〇パーセントである。
2 後遺障害による逸失利益
(1) 原告の主張
原告の後遺障害のうち、右下肢の二関節の用を廃した点(右下肢の足関節は全く曲がらず、膝関節は曲げることはできるが常時固定装具の装着を必要とする)は後遺障害等級六級七号に、左下肢に偽関節を残した点は八級九号にそれぞれ該当する。結局、原告の後遺障害等級は、労働基準監督署の認定どおり併合四級であり、これによる労働能力喪失率は九二パーセントである。
原告は、日本で働いて貯蓄をし、将来はブラジルでコンビニエンスストアのような店を開くという希望を持っていたことはあるが、これは漠然とした希望であって確定的なものではない。原告は、本件事故当時、収入がよいことや友人が数多くできたこと(日本で結婚しているブラジルの友人も多い)から日本での生活に満足し、右の漠然とした希望もなくなっており、ブラジルへの帰国は考えていなかった。日系二世の原告は、書類審査だけでビザの更新ができるので、引き続き日本に滞在することに何らの障害もなかった。このように原告は、商用や観光目的で来日した外国人、留学生とは異なるのであって、ブラジルへ帰国する極めて高度の蓋然性がなければ、日本人と同様に逸失利益の算定を行うべきである。
原告は、本件事故前は健康で年額四〇五万九四二五円の収入を得ており、症状固定時二八歳であったところ、少なくとも六七歳までは日本での就労が可能であったから、原告の後遺障害による逸失利益は、次の計算式により七九五八万二一〇四円である。
405万9425円×0.92×21.309(就労可能年数39年の新ホフマン係数)=7958万2104円(円未満切捨て)
仮に、右主張が認められず、ブラジルでの賃金を基礎収入とするのであれば、原告が来日前に従事していた貴金属加工労働者の現在の月額賃金一〇〇八レアル(最低賃金一一二レアルの九倍)によるべきである。そうすると、原告のブラジルでの年間収入は、次の計算式により一三八万九八三〇円である。
1008レアル×114.9(円への換算率)×12=138万9830円(円未満切捨て)
(2) 被告の主張
原告の労働能力喪失率は、自賠責保険で認定された後遺障害等級の併合五級を基準とすべきであり、これに対応する労働能力喪失率は七九パーセントである。ところで、原告の後遺障害のうち、自賠責保険において八級九号と認定された左腓骨偽関節は、本件事故による直接の損害ではなく、医師が腰椎前方固定術のために左腓骨から骨を採取したことによるものであるところ、医師が健全な左腓骨から採骨して偽関節という後遺障害を作ったのは、腓骨よりも太くて足の機能を主につかさどる脛骨が平行して存在するという判断があったからであり、左腓骨偽関節が労働能力に及ぼす影響は少ないと考えられる。また、原告の右足には労働能力に大きな影響を及ぼす後遺障害が残っていることからしても、左腓骨偽関節による労働能力喪失率の増加は大きくはない。さらに、原告は、ギブスを装着しないで移動することは容易ではないが、座ったままで仕事をすることは十分可能である。以上によれば、原告の後遺障害による労働能力喪失率が七九パーセントを上回ることはない。
原告は、将来ブラジルでコンビニエンスストアを経営するための資金を稼ぐため、平成元年、二年間の就労予定で来日し、その後、本件事故時まで日本での就労を続けていたものであるが、将来も日本で生活するという明確な生活設計があったわけではなく、五人兄弟のうち唯一の男性であるという家庭関係等からしても、遠からずブラジルへ帰国する高度の蓋然性があったというべきである。そうすると、症状固定時から三年間は日本で得ていた実収入額と同額を、その後の三六年間はブラジルで得られたであろう収入額を基礎として逸失利益を算定すべきであり、後者については、ブラジルにおける給与水準を参考にして最低賃金の4.5倍である月額四五〇レアルと推定するのが合理的である。
したがって、原告の後遺障害による逸失利益は、次の計算式により合計一七二七万〇〇二二円である。
① 日本での就労予測期間の逸失利益
405万9425円×0.79×2.731(就労可能年数3年の新ホフマン係数)=875万8169円(円未満切上げ)
② ブラジルでの就労予測期間の逸失利益
450レアル×107.40(円への換算率)×12=57万9960円
57万9960円×0.79×(21.309〔就労の終期までの年数39年の新ホフマン係数〕−2.731〔就労の始期までの年数3年の新ホフマン係数〕)=851万1853円(円未満切上げ)
①+②=一七二七万〇〇二二円
第三 争点に対する判断
一 本件事故における原告と被告の過失割合
甲第二五号証の一ないし六、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
本件交差点は信号機のない交差点であり、幅員5.6メートルで中央線が設けられたほぼ南北に走る市道(原告進行道路)と幅員4.4メートルのほぼ東西に走る市道(被告進行道路)とが交差している。被告進行道路からは本件交差点の左右の見通しが悪く、また、東側の交差点入口よりも西側の交差点出口が北側に位置していることから、この間では、車両は右に曲がる形で進行することになるが、完全に右折するような状況ではない。右交差点入口には一時停止の標識が設置されている。原告進行道路は、最高速度が時速四〇キロメートルに制限されている。加害車を運転して被告進行道路を西進していた被告は、本件交差点入口の停止線の直前で一時停止した後、左右の見通せるところまで前進し、再び停止して交差道路の通行車両が途切れるのを待ち、前方のカーブミラーによって右方道路からの車両がないことを確認したものの、左方道路から進行して来た車両に気をとられ、再度右方道路の安全を確認することなく発進した。その直後、ブレーキ音がしたことで右方道路から進行してきた原告運転の被害車に気付いて急ブレーキをかけたが及ばず、同車と衝突して本件事故を惹起した。被害車を運転していた原告は、本件交差点入口で停止している加害車に気付いたが、同車が発進することはないと軽信し、減速することなく制限速度を超える時速約五〇キロメートルで走行していたところ、同車が発進したことに気付き、急ブレーキをかけたが及ばず、加害車の右側部に衝突した。(なお、原告は本人尋問において、本件事故当時の被害車の速度ははっきりしない旨供述するが、甲第二五号証の五、六における原告及び被告の各供述等に照らすと、本件事故直前の被害車の速度は時速約五〇キロメートルであったと認められる。)
以上によれば、被告に右方道路の安全確認を怠ったという過失があることは明らかであるが、原告も事前に加害車に気付いていたのであるから、その時点で減速すべきであったといえる。そして、加害車は発進直後でそれほど速度は出ていなかったと推認できるから、原告が同車に気付いた時点で減速していれば、少なくとも被害の程度を軽減することが可能であったと認められる。したがって、本件事故における過失割合は、原告が二〇パーセント、被告が八〇パーセントと認めるのが相当である。
二 原告の損害額〔括弧内は原告主張の損害額である〕
1 治療費〔一三三七万五五六〇円〕一三三〇万四六三六円
乙九号証の一ないし六、第一〇号証及び弁論の全趣旨によれば、原告の治療費は、一三三〇万四六三六円であると認められる。
2 付添看護費〔一四八万六五〇九円〕一四八万六五〇九円
付添看護費が右金額となることは、当事者間に争いがない。
3 入院雑費〔五四万四七〇〇円〕四一万九〇〇〇円
原告は前記のとおり四一九日間入院したが、入院が長期間に及んでいることなどを考慮すると、入院雑費は一日当たり一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、四一九日間で四一万九〇〇〇円となる。
4 装具購入費等〔三五万九五二一円〕三五万九五二一円
頸椎固定・腰椎装具購入費、住宅改造費及び原告の両親の病院までの交通費の合計が右金額となることは、当事者間に争いがない。
5 休業損害〔五七三万七二五二円〕五七三万七二五二円
原告の症状固定時までの休業損害が右金額となることは、当事者間に争いがない。
6 逸失利益〔七九五八万二一〇四円〕二三二九万七六二五円
(1) 原告の後遺障害の内容自体には当事者間に争いがないので、これによる労働能力喪失率について検討するに、甲第二三号証及び乙第一四号証によれば、労災保険(多治見労働基準監督署)における原告の後遺障害の等級認定は併合四級であるのに対し、自賠責保険(自動車保険料率算定会)におけるそれは併合五級であること、労災保険においては、①脊髄損傷による右下肢の運動機能障害と左下肢の神経障害について、右膝関節、右足関節が常時固定装具の装着を絶対に必要とすることから「一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの」として、脊髄の障害の準用等級として六級準用に、②左腓骨からの骨採取による偽関節について、「一下肢に偽関節を残すもの」として八級に、③胸・腰椎の脱臼骨折による脊柱の変形について、「脊柱に変形を残すもの」として一一級にそれぞれ該当するとした上で、八級以上の障害が二つ以上あるので重い方の障害が該当する等級を二級繰り上げて併合四級と認定したこと、自賠責保険においては、①脊髄損傷に起因する左下肢の痺れ、右大腿の痺れ等の神経機能障害について、日常生活動作検査等から総合評価し、「明らかな脊髄症状のため、独力では一般平均人の二分の一程度の労働能力しか残されていないもの」として自賠法施行令別表七級四号に、②頸椎骨折、胸腰椎脱臼骨折により当該各部位に固定術が施され、脊柱に変形が認められることについて、「脊柱に変形を残すもの」として同表一一級七号に、③固定術の施行に際し、骨移植のための骨盤骨からの採骨について、「骨盤骨に著しい変形を残すもの」として同表一二級五号に、④固定術の施行に際し、骨移植のための左腓骨からの採骨による偽関節について、「一下肢に偽関節を残すもの」として同表八級九号にそれぞれ該当するとした上で、八級以上の障害が二つ以上あるので重い方の障害が該当する等級を二級繰り上げて併合五級と認定したこと、自賠責保険における認定が労災保険のそれと相違するのは、脊髄損傷に起因する障害の評価が異なるからであり、自賠責保険においては、複雑な諸症状を呈する右障害について諸症状を総合評価し、その労働能力に及ぼす影響の程度により等級認定(七級四号)をした(膝及び足関節の運動機能について、関節の拘縮やクローヌス等の病的反射等の他覚的所見がないことから関節機能の評価としては用廃に至らないものと考え、脊髄損傷に伴う下肢の運動知覚麻痺として総合的に捉えて認定した)のに対し、労災保険ではこのような総合評価はせず、右下肢の運動機能障害として評価していることが認められる。
以上の事実に加えて、労災保険及び自賠責保険においていずれも八級の後遺障害と認定されている左腓骨からの採骨による偽関節については、このような後遺障害を残すにもかかわらず、原告の治療のために医師が健全な左腓骨から骨を採取したのは、腓骨よりも太くて足の機能を主につかさどる脛骨が平行して存在するという事情があったからであると推認できることをも考慮すると、原告の後遺障害は併合五級に相当し、これによる労働能力喪失率は七九パーセントを上回ることはないと認められる。
(2) 次に、後遺障害による逸失利益は、事故に遭わなければ得られたであろう利益の喪失分であり、その算定の基礎となる被害者の収入額は、被害者の個別事情に照らして、相当程度の蓋然性をもって推定される被害者の将来における就労の場所、内容等の労働形態に基づいて認定すべきである。そして、将来出国が予想される外国人の場合は、諸般の事情を考慮して、日本における就労が予測される期間は日本における収入を、その後は想定される出国先(多くは母国)での収入を基礎として逸失利益を算定するのが合理的である。
甲第二六ないし第二八号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、日系ブラジル人の原告は、平成元年一一月二五日に九〇日の観光ビザで来日し、その後、在留期間の延長許可や在留資格の変更許可を受けるなどして日本に滞在しており、この間の平成四年七月には「日本人の配偶者等」の在留資格で三年間の在留許可を得ていること、原告は、平成二年七月株式会社アイキに入社して本件事故当時まで稼働していたが、原告にはブラジルに帰国する具体的な計画はなかったこと、原告の父は、平成四年四月に原告の母及び妹と来日し、本件事故当時まで岡山県総社市内の金属加工会社で働いていたことが認められるが、他方で、原告は、日本で資金を貯めてブラジルでコンビニエンスストアのような店を開店したいと思って来日し、当初は二年間で帰国するつもりであったこと、原告と一緒にブラジルから来日した者の中には既に帰国した者もいること、原告の姉二人は結婚してブラジルで暮らしていることが認められるほか、本件事故当時、原告は日本において両親と一緒に暮らしたり、結婚する予定であったことを窺わせるような証拠もない。
以上によれば、原告は、症状固定時から五年間は日本で就労する相当程度の蓋然性があったといえるが、これを超える長期間にわたって日本で就労する相当程度の蓋然性があったとはいえない。したがって、原告の後遺障害による逸失利益は、①症状固定時(なお、原告は症状固定時から二週間足らずで満二八歳に達していることや逸失利益に関する原告の前記主張に鑑み、原告は症状固定時二八歳であったことを前提とする)から五年間は日本で得ていた実収入額と同額を、②その後の三三歳から六七歳までの三四年間は原告の母国ブラジルで得られたであろう収入額を基礎として算定するのが相当である。
そして、甲第三八号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、来日前に貴金属加工の仕事に従事していたことは認められるが、その当時の原告の収入を認定する的確な証拠はない(原告は、甲第三五号証、第三七号証を根拠として、原告のブラジルでの収入は月額一〇〇八レアルとすべきであると主張するが、乙第一五号証の一ないし三に照らすと、右主張は直ちには採用できない)。そうすると、甲第三〇ないし第三三号証、第三七号証によって認められる一九九六年一〇月ないし一一月当時のブラジルの最低賃金月額一一二レアルを原告の収入とすることも考えられなくはないが、原告のブラジルでの収入が最低賃金の4.5倍であることを前提とした被告の主張を弁論の全趣旨として考慮し、原告のブラジルでの収入は、月額五〇四レアルと認めるのが相当である(なお、原告の日本における年収が四〇五万九四二五円であることは、当事者間に争いがない)。
したがって、原告の後遺障害による逸失利益は、次の計算式により合計二三二九万七六二五円である(レアルの円への換算率については、甲第三三号証によって114.9を使用する)。
① 日本での就労予測期間の逸失利益
405万9425円×0.79×4.364(就労可能年数5年の新ホフマン係数)=1399万5111円(円未満切捨て、以下同様)
② ブラジルでの就労予測期間の逸失利益
504レアル×114.9×12=69万4915円
69万4915円×0.79×(21.309〔就労の終期までの年数39年の新ホフマン係数〕−4.364〔就労の始期までの年数5年の新ホフマン係数〕)=930万2514円
①+②=二三二九万七六二五円
7 慰謝料〔①入通院慰謝料三三〇万円、②後遺障害慰謝料一六〇〇万円〕 ①三〇〇万円、②一二〇〇万円
前記のような入通院による治療の経過、後遺障害の程度・内容、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告の入通院慰謝料は三〇〇万円、後遺症慰謝料は一二〇〇万円と認めるのが相当である。
三 過失相殺及び損害の填補
(1) 原告の損害費目のうち、治療費、付添看護費、入院雑費の合計一五二一万〇一四五円は、原告が労災保険から受領した療養給付一三二九万一二四六円(この点は当事者間に争いがない)と同一の事由による損害と認めるのが相当である。そして、右損害額合計一五二一万〇一四五円から過失相殺により二〇パーセントを控除すると、一二一六万八一一六円となり、過失相殺後の右損害額は右療養給付を下回るから、原告は右損害費目については更に請求することはできない。
原告の損害費目のうち、休業損害、逸失利益の合計二九〇三万四八七七円は、原告が労災保険から受領した休業給付三二四万〇一〇五円(この点は原告が自認している。なお、被告は、原告が受領した休業給付が右金額を超える四二三万〇一四〇円であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない)と同一の事由による損害と認めるのが相当である。そして、右損害額合計二九〇三万四八七七円から過失相殺により二〇パーセントを控除すると二三二二万七九〇一円となり、これから右休業給付を控除すると、一九九八万七七九六円となる。
なお、原告が労災保険から保険給付に付加して休業特別支給金及び障害特別支給金を受領したことは当事者間に争いがないところ、被告は、原告が受領した右特別支給金も原告の損害額から控除すべきであると主張するが、右特別支給金の支給は、労働福祉事業の一環として被災労働者の福祉の増進を図るために行われるものであり、保険給付とは異なって損害を填補する性質を有するものではないから、原告が受領した特別支給金を原告の損害額から控除することはできないというべきである。
(2) 原告の損害費目のうち、装具購入費等、慰謝料(入通院慰謝料及び後遺障害慰謝料)の合計一五三五万九五二一円から過失相殺により二〇パーセントを控除すると一二二八万七六一六円(円未満切捨て)となる。
(3) 右(1)及び(2)で算出した原告の損害額合計は、三二二七万五四一二円であるが、原告が自動車保険金として合計四八一万九一五五円の、被害者請求に基づく自賠責保険金(後遺障害保険金)として一五七四万円の各支払を受けていることは当事者間に争いがなく、これらは交通事故による人身損害全体の賠償を目的とするものであるから、これらの合計額二〇五五万九一五五円を控除すると、一一七一万六二五七円となる。
四 弁護士費用〔二〇〇万円〕一二〇万円
本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、一二〇万円と認めるのが相当である。
第四 結論
以上によれば、原告の本件請求は、被告に対し、金一二九一万六二五七円及びこれに対する本件事故日である平成五年一〇月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。
(裁判官中里智美)